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脳の記憶と痛みの関係

私たちは、痛みを脳で感じています。痛みと脳の関係について、日本でも世界でもさまざまな実験がおこなわれ、科学的に証明されています。

一体、脳内では痛みが起こると、どのような反応が起きているのでしょうか。今回は、日本や世界でおこなわれている脳と痛みの関係に関する実験をもとに、脳の記憶と痛みの関係について解説します。

痛みにつながる映像を見せるだけでも痛みがでる

脳科学分野では、「痛みは記憶される」という研究がおこなわれています。痛みの記憶に関する実験は、愛知医科大学の学際的痛みセンターの研究室でも進められて立証されています。

愛知医科大学のセンター長である牛田享宏先生がある実験をおこなわれています。

先生は、重症の慢性痛経験者(軽く触れても手を痛がる患者さん)に対して、MRI内で患者の手に触れている様子をビデオで見せて脳の記憶や情動に関係する「後帯状回(こうたいじょうかい)」の脳活動について調べる研究をおこないました。

研究では、慢性痛非経験者と慢性痛経験者では、慢性痛経験者の方が後帯状回の脳活動が活発化することが認められました。

通常、健常者(けんじょしゃ、健康な人)なら反応する「視床(ししょう)」は反応しなかったようです。

視床とは、嗅覚を除いた視覚や聴覚、体性感覚をなどの感覚を、大脳新皮質(だいのうしんひしつ)」へ伝えるための中継ポイントです。

また、慢性痛非経験者はこのビデオを見ても痛みや不快な症状を全く訴えないのに対して、慢性痛経験者はビデオを見ても実際に触れられているのと同じ苦痛を訴えたそうです。

腰痛経験者に対しても、同じような実験(写真を見せる)をおこなったところ、軽く手を触れても痛がる患者さんとほぼ同じような反応を示すことを確認したそうです。

こうして考えると、痛みは脳の記憶媒体に深く関与していることがわかります。研究の結論として、重症の慢性痛患者は、痛みにつながる映像を見るだけでも痛みが生じます。

つまり、痛みを生じさせるには、本物の怪我などは必要ないということになります。ちなみに、よく知られている実験で、「梅干しの画像を見せると唾液が出る」という実験があります。

これは、私たちの日本人の脳内には「梅干しは酸っぱいもの」という記憶が脳に刻み込まれているため、実際に梅干しを食べなくても画像を観るだけで唾液が出てくるのです。

痛みでも梅干しでも、脳の記憶が深く関与して、結果として痛みが生じたり唾液が出たりします。

ギプス固定だけで骨折していなくても痛がる動物

愛知医科大学のセンター長である牛田享宏先生は、映像実験研究以外にもさまざまな研究をされています。

ラットによる研究もおこなわれていて、例えば牛田先生の研究に「CRPS(Complex regional pain syndrome、複合性局所疼痛症候群、ふくごうせいきょくしょうとうつうしょうこうぐん)」のメカニズムを解明するものがあります。

この疾患は、「神経因性疼痛(しんけいいんせいとうつう)」という痛みの分野の代表で、自律神経の交感神経が過剰に活発化することにより疼痛が生じる病気です。

複合性局所疼痛症候群は、骨や筋肉組織、神経組織が損傷したり、外傷や内臓疾患、中枢神経系損傷後に発症したりするとされています。

複合性局所疼痛症候群は1994年に国際疼痛学会で定義された名称です。複合性局所疼痛症候群の定義は、「骨折などの外傷や神経損傷の後に疼痛が遷延(せんえん)する症候群」と定義しています。

遷延とは、簡単に説明すると「痛みなどの症状が長引くこと」です。

複合性局所疼痛症候群になると、きっかけとなるさまざまな怪我や損傷などと比べて不釣り合いな疼痛が長期間続いたり、損傷部位とは無関係な箇所に痛みが生じたりするようになります。

ちなみに、この痛みが発症したり持続したりするメカニズムは、いまだに医学的に解明されていません。

牛田先生のラットによる実験では、手を骨折させてギプス固定したラットと、骨折していないラットの手にギブス固定したラットを飼育して痛みの経過を調べるものです。

この実験では、驚くべきことに、どちらのラットでも手が痛がるようになったそうです。

ここで牛田先生が疑問に思ったのが、「骨折していないラットがギブス固定して手を痛がるのはなぜか?」ということです。

その後、牛田先生は骨折していないのにギブス固定したラットに対して、脊髄に針を刺した状態で手に痛みの刺激を与えて脊髄細胞の様子を調べる実験をおこないました。

すると、それまで反応しなかった些細な刺激でも反応する「痛がり動物」に変化していることがわかりました。

つまり、「怪我をしていなくてもギプス固定するだけで痛くなることがある」と牛田先生は論文をまとめました。

ミクログリアの活性化

私たちの体内には、さまざまな細胞があります。その細胞の中に、「ミクログリア(microglia)」という細胞があります。

和名では、ミクログリアのことを「小膠細胞(しょうこうさいぼう)」といいます。ミクログリアの別名は、「Hortega細胞」といいます。

ミクログリアは、脳脊髄神経内に存在する「グリア細胞」の一種です。ミクログリアは中枢神経系内における細胞の約5%~20%を占める細胞です。

ミクログリアは、神経細胞が炎症したり変性したりすると活性化して、これらの病変を修復するために関与する細胞です。

また、ミクログリアは細胞にある突起を伸ばして周囲の細胞に接触し、常に細胞の異常がないか監視しています。

ミクログリアは、細胞に異常が起こると形を変えて、細胞の修復を手助けする成長因子を放出します。

他にも、ミクログリアは細菌や腫瘍細胞を殺す分子も放出します。さらに、死んだ神経細胞や脳細胞を食べるなど、脳内の掃除係の役割も担っています。

さて、愛知医科大学の熊澤孝朗教授によるミクログリアの研究では、前述した複合性局所疼痛症候群のメカニズムを解明するラット実験をおこないました。

この実験では、牛田先生の研究からの流れで、骨折していないラットの片足を2週間ギプス固定して慢性痛を引き起こします。

そのラットのギブス固定を外した後の痛がり方とミクログリアの様子を調査しました。

その結果、ギプスを外した1日目からギプスがないのに足底や尻尾を痛がり、さらにその後は痛がり方も悪化したそうです。

ラットは、ギプス固定を外して13週目にようやく回復傾向がみられたそうです。このラットの脊髄内のミクログリアは、痛がることと同時に活性化していることがわかりました。

つまり、慢性痛はギプス固定などの刺激でもミクログリアが活性化するなど、深く関係している可能性があります。

近年の医学的研究ではラットだけでなく、痛みで悩んでいる人の脳内で、ミクログリアが活性化していることがわかってきました。

ミラーニューロンと痛みの関係

私たち人間など霊長類などの高等生物の脳内では、自分が行動したときと他人が行動するのを見ている状態の両方の状態で、電位活動を発生させる神経細胞があります。

この神経細胞のことを「ミラーニューロン(英:Mirror neuron)」といいます。

この名前の由来は、他人や他の個体の動きや行動を見て、まるで自分が同じ行動をとっているような反応をおこなうことからミラーニューロンという名前が付けられました。

ある専門家は、他人がおこなう行動を見て、自分のことのように感じる「共感能力(エンパシー、empathy)」を保持しているからだといいます。

猿による実験では、猿の運動前野腹側部(うんどうざんやそくふくぶ)と下頭頂小葉(かとうちょうしょうよう)に、ミラーニューロンが確認されました。

ミラーニューロンは、自分が何らかの行為をおこなうときにも、他者が同じような行為をおこなうときにも活動する細胞(ニューロン)です。

ミラーニューロンは、ただ単に何らかの行為の視覚特性だけに反応しているわけではありません。

ミラーニューロンが反応しているときには、何らかの行為の意図まで処理しているといいます。

猿の実験では、「腹側運動前野(ふくそくうんどうぜんや)」のF5野と呼ばれる脳領域で、手で何か物をつかむという行為について調べていました。

その実験中に、研究者が物を拾うという行為をおこなうと、猿がその行為を観察しているときにミラーニューロンが活動することが示されたのです。

また、この実験では、何らかの行為を実行する行為だけでなく、観察する行為に対してもミラーニューロンが反応することがわかりました。

ミラーニューロンは、マカク猿や鳥類など、人以外の他の動物でも観察され、その存在が認められています。

ミラーニューロンは、1996年にイタリアの科学者である「ジャコモ・リッツォラッティ(イタリア;Giacomo Rizzolatti)」氏が発見しました。

近年の研究では、私たちが他者の行動などを瞬時に理解できる能力があるのは、ミラーニューロンのおかげだという専門家もいます。

ある神経科学者は、ミラーニューロンを使用したミラーシステムがあるおかげで、さまざまな現象に対して見通しを立てることができるといいます。

他にも、このニューロンにより同一化して感情移入をおこなったりして感情を体験(映画やテレビなど)したり、模擬学習をおこなったりすることが可能になるといいます。

ミラーニューロンを簡単に説明すると、他者が何かをおこなっている行為を観察したり実行したりすると、ミラーニューロンの働きが活性化するということです。

勉強でもスポーツでも、何か教えることが上手な先生に教えてもらえば勉強もスポーツも上手くなります。

逆に、教えること(勉強ができないことや技術自体が下手な先生)が下手な先生に教えてもらえば、生徒は勉強もできないしスポーツも下手になります。

実は、ミラーニューロンの働きは、痛みにも大きく関係します。

例えば、テレビやインターネットなどの動画で役者が怪我したり注射を打たれたりするシーンを見ると、なぜか自分も痛みを感じるようなことがありませんか。

そうした感覚も、ミラーニューロンが反応して起こっていることになります。

つまり、何らかの痛みを感じたときに活性化する脳の分野は、痛そうな動画や写真を見たときに同じ脳の分野が活性化して痛みが共感しているのです。

このように、ミラーニューロンの働きは、他者がおこなう何らかの行為に対して反応や共有をしています。

痛みなどは別として、私たちが日常生活を過ごす上では、ミラーニューロンはとても重要な役割を担っています。

まとめ

身体に痛みが生じると、日常生活や精神面でも大きな影響を及ぼすことになります。

近年の医学界では、「痛み記憶」という概念が提唱されて、何らかの障害を受けて痛みが生じたときに脳の記憶の段階に至らせないことが重要だとわかってきました。

つまり、痛みが出たら放っておかずに、早い対応により痛みを軽減することが大切だということです。

以前の医学界では、何らかの外傷による「急性痛」のように、痛みは神経圧迫や患部の炎症などが原因で起こるため、それらの原因を物理的に除去すれば痛みはなくなると考えられていました。

さらに、物理的に痛みを除去すれば、機能障害の減少にもつながると考えていました。こうした考えが、医学界の常識だったのです。

しかし近年の医学では、原因不明の痛みや画像検査などの検査に比べて、明らかに過剰な痛みを訴える「慢性痛」が明らかになってきました。

そして、この慢性痛がとても世の中の患者さんに多いのです。

愛知医科大学の牛田先生は、「痛みは脳で最終的に認知しているので、痛みには心理的な要因が大なり小なり必ず関与している」といいます。

また、牛田先生は「痛みは感覚経験であるという観点から考えると、痛みは“記憶”される。理論的には記憶されたものは消せないので、記憶される段階に至らないようにすることが大切だ」とも説明されます。

前述したとおり、痛みと脳が記憶を通じて密接に関係していることも科学的にわかってきました。

身体は、痛みが持続すれば神経機能が活性化して、神経過敏や神経シナプスが神経伝達物質を過剰に放出します。

それにより、痛みの伝達が増すこととなり、通常では痛みを感じないレベルの刺激でも反応するようになります。

こうしたことからもいえるとおり、今までの医学(特に整形外科など)では常識だった「痛みの原因は骨の変形や神経圧迫などの肉体的なもの」という考え方から離れていく必要があります。

もちろん、骨の変形や神経圧迫が大いに痛みと関係していることはいうまでもありません。ただし、それだけでは解明できない痛みが多く存在するということです。

大切なことは、痛みの記憶と自分の感情を切り離してみることです。

そうすることにより、今まで対応できなかった痛みにも対応することができ、より多くの患者さんを救うことができるようになるでしょう。

あんしん療法では、ボキボキしたりグイグイ押したりするような強い施術はおこないません。

そのような強い刺激は、当然ミラーニューロンが働き、余計に痛みを感じてしまうからです。それが「揉み返し」です。

あんしん療法は、優しく完全無痛の施術方法でおこなわれるとてもソフトな脳科学療法です。

実際にあんしん療法の施術を受けていても、何をしているかわからないくらいソフトで、寝てしまう人もいるくらいの優しく安全な施術方法です。

脳科学療法により身体に正しい動きを記憶させることで、正しくミラーニューロンが働きます。

その結果、痛みのない身体の状態を脳が記憶し、身体の連動性を取り戻して痛みの再発しない動きを記憶させることが可能になります。

あんしん療法では、神経過敏で痛みの強い患者さんでも脳や身体に対して「適切な働きかけ」をおこなうことにより、痛みを改善します。

「あんしん堂」では、なるべく本人の早い改善を目指し、早期復帰できるようにアプローチさせていただきます。